コロナ禍の香港を描いた劇映画「星くずの片隅で」8/18(金)関西で公開

【ものがたり】2020年、コロナ禍で静まり返った香港。「ピーターパンクリーニング」の経営者ザク(ルイス・チョン)は、業務用の車の修理代や品薄の洗剤に頭を悩ませながら清掃・消毒作業に追われる日々を送っている。リウマチを患う母(パトラ・アウ)は、憎まれ口をたたきながらも、息子を心配している。ある日、ザクのもとにド派手な衣装のシングルマザー、キャンディ(アンジェラ・ユン)が職を求めてやって来た。娘のジュー(トン・オンナー)のために、慣れない清掃の仕事を頑張るキャンディだったが……。

今年3月の「大阪アジアン映画祭」コンペティション部門で満員の観客を迎えて上映され、「こんな香港、見たことない!」と話題になった「星くずの片隅で(原題:窄路微塵、英題:The Narrow Road)」が、関西では8月18日(金)からシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都で公開される。昨年、日本で公開された香港映画「少年たちの時代革命」(2021)をレックス・レン監督と共同監督したラム・サム監督の初の長編監督作品だ。日本公開を前に、ロンドン在住のラム監督にリモート取材した。

【ラム・サム監督リモートインタビュー】

――主演のルイス・チョンは香港で人気のシンガー・ソングライターだそうですね。

俳優としてはコメディーへの出演が多いので、あまりしゃべらない中年のキャラクター、ザクを演じたら意外性があっておもしろいと思って、脚本が8割できた時点で、脚本家のフィアン・チョンと話し合ってオファーしました。

実はザクの年齢は最初50歳ぐらいの設定でしたが、ルイスさんと話してもう少し若い43歳にしました。体の衰えを感じ始める年だけど、リタイアまでは20年ぐらいあるから未来を考えないといけない年齢。ルイスさんが自分のままで演じられると思ったんです。

ザクの母親役にパトラ・アウさんが決まったと伝えた時、ルイスさんは「最高だ!」と言いました。演劇界の大先輩で、まさにプロフェッショナルの俳優ですからね。

――コロナがあったから清掃業の主人公にしたのですか?

違います。脚本の構想はコロナ前から始めていました。2018年に脚本家と打ち合わせしていたら、賃金や労働時間の改善を求める清掃員のデモにたまたま遭遇したんです。

それを見て、清掃の仕事はなくてはならない仕事で、彼らは誰かのために自分の時間を割いて頑張っています。常に誰かのために問題を処理している。そんな清掃員たちの自分自身の問題はどうなのか。彼らの問題は放っておかれたまま、誰も処理してくれない。そんな物語を書いてみたいと思いました。

――脚本家のフィアン・チョンさんとはどんな関係ですか?

フィアンは香港演芸学院電影電視学院の2学年先輩です。学生時代はあまり交流がなかったけれど、仕事をするようになって互いの生育環境が似ていることなどから親しくなりました。

ラム・サム監督

私たちはそれほど裕福なエリアの出身ではありません。しかし私には、成長過程で手を差し伸べてくれる人や道しるべとなる人が、父親をはじめ周りに多くいました。そうした人たちの姿をザクに投影しています。

――コロナの影響で脚本が変わったところがありましたか?

全世界で生活が一変しましたね。私には子どもがいますが、学校にいけないとか、映画業界では仕事がなくなってしまい、生活のために転職する人もいました。また、お店が営業できなくなるなど様々な問題も起きました。私の父もコロナ禍で亡くなりました。そうした私たちの身の回りで起きた変化も作品に盛り込みました。

――キャンディ役のアンジェラ・ユンさんはアジアのトップモデルです。

キャンディ役は当初ちがう女優を予定していました。コロナでスケジュールが延期してしまい、その女優のスケジュールが合わなくなってしまったので、オーディションをしてアンジェラさんに決めました。

アンジェラさんにはお飾り的なキャラクターイメージを持っていたのですが、オーディションでガラリと印象が変わりました。緊張していて、何となく本心を隠しているような感じが、キャンディと重なると思いましたし、役作りの提案として派手な衣装で来てくれたのですが、生命力の強さをこめたキャンディのキャラクターに合っていると思いました。それで、スタイリストとも相談してキャンディとジューの衣装を決めていきました。

個性的で生命力のある服装やインテリアを通して、困難な状況にあっても負けないキャンディという役を表現したかったのです。

――映画初出演、子役のトン・オンナーも達者な演技でした。

子どもらしい幼さを残しながら、母を気遣う様子がうかがえる。本当に期待の新人ですね。

――撮影は2021年でしたね?

はい。コロナ禍で撮影していたこともあり、なるべく今この瞬間の香港を見せたいと思いました。メインのロケ地は土瓜灣(トクワワン)。ザクの母の家は深水埗(シャムスイポー)エリアです。香港でも少子高齢化は進み、多くの人が生活するのに精いっぱいです。

普段の香港は人があふれていますが、撮影当時の香港の街には人がいなくて、すれ違う人たちはみんなマスクをつけていました。今はマスク着用義務はなくなりましたが、今見返してみてもコロナ禍の香港、香港だけでなく世界中が大変だったと思います。

ただ、そんな大変な時でも、人は互いを気遣い、支え合うことができる。人間のそんな姿は、文化の違いを超えて感動を与えられるのではないかと思っています。

――ありがとうございました。

「星くずの片隅で」公式HP:https://hoshi-kata.com

©mm2 Studios Hong Kong

 




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